水しぶきプールサイドの新聞に  神野紗希

 モノだけが淡々と描かれている。そのモノの見せ方、とはつまり言葉の提示の仕方であるが、そこに鮮やかな冴えが見られる。「水しぶき」の上五で注意を引かれた読み手は、下五の「新聞に」という文字に到って、思わずはっとさせられる。

 余計なことは一切語られない。そのために、その語られない言外の状況への想像がかき立てられる。描かれた断片の背後に、読み手は物語を組み立てようとする。「プールサイド」という場面の特異さも、一役買っていよう。

 何かが始まる予感、または何かが終わった予感。濃厚な物語性を秘めながら、水しぶきに濡れた新聞紙がただただ静かにプールサイドに置かれている。