花菜風君洗濯をしているか 神野紗希

 菜の花の香りを乗せた明るい風に吹かれていると、ふっと「君」のことが頭をよぎった。今日は休日、きっと今頃「君」は、溜まった洗濯物でも片づけているだろうか……。

 作者は女性と分かっているので、「君」は男性と解した。慣れない家事に励んでいる「君」の姿を、微笑ましい思いで想像している作者の表情が見えてきて、こちらまで微笑ましい思いに包まれる。

 虚子の故郷松山出身の作者のことだから、〈永き日を君あくびでもしてゐるか 虚子〉の作は、もちろん知っていただろう。この句は、若くして命を断った藤野古白の一周忌に詠まれたもの。天上の故人への手向けの句が、軽やかな言葉の調子はそのままに、恋人への呼びかけの句として詠み換えられている。