存へし顔秋風にきざまるる  山上樹実雄

「存(こしら)へし」とルビ。不思議な句だ。「存へし顔」とは。顔が風に刻まれるとは。
ちょっと気張って表情を作ってみたけれど、秋風にさらされて、なんとなし刻まれてゆくような心地…不安のような、無常を受け入れているような…そんな乾いた気分を受け取った。「秋風にきざまるる」は心理的な描写、秋風の句としても新鮮な措辞だ。

句集『春の顔』(ふらんす堂、2012年9月)より。帯には「頬骨に保たれてけふ春の顔」。この帯の句にやられてしまった。筋肉はおとろえ、かろうじて頬骨によってかたちを保つ「顔」というもの。その物質感が顕在化するからこそ、表情をつくるという行為の積極性を感じる。頬骨がいちばん目立つのは、笑顔。「春の顔」だから、なおさら笑顔。この二句、言葉もゆるぎなく運命的に手を結びあい、あそびごころもあり、からからに乾いた句なのにずっしりと重たい。俳句に、まだこんな堂々たる余地が残っていたのだなあ。