梅林に探梅に来ている。冬の終わりの日差しが、すかすかした梅林にしずかな華やぎを与えている。ちょっと休もうと四阿の屋根をくぐると、机の上にボールペンが。誰かが忘れていったらしい。まだ梅もほとんど咲いていない梅林に来る人は珍しい。だからこそ、人がいた形跡にハッとする。すでにここにはいない誰かもまた、この梅林を見て、何かを感じ、ことばを書きとめたのだろうか。そのどこかの誰かがボールペンに残した体温は、すでにつめたい風に吹かれて消えてしまったが、誰かがいた形跡であることに間違いなく、そのかそけきつながりにほのかな人恋しさの気分を読み取る。
第二句集『峡谷』(角川書店、2012年10月)より。そのほか惹かれた句。
入学や切り岸に街見下ろして
みづうみへこゑ伸びてゆく初鴉
炎天の遠富士棘のごとくなり
雪降つてをり寒鯉の眼に力
うぶすなの白樫に瘤春一番
春峰の覚めぎはに見し峰の数
母逝くや冬茜空蒼きまま