書物の起源冬のてのひら閉じひらき  寺山修司

「書物の起源」と「冬のてのひら閉じひらき」は、別々にあれば、別々の出来事。でも、一句にまとめられたことで、この句の向こうの寺山は、てのひらが本の起源だと言わんばかりだ。どんな季節でもいいはずなのに「冬」を選んだのは、もの書く厳しさに言及したかった、ということなんだろう。
実際、てのひらを使ってペンが執られ書かれていくわけで。そして読まれるときにもてのひらでめくられていくわけで。厳密に「起源」という言葉をとらえれば、パピルスとか歴史にさかのぼっていくしかないのだけれど、そういう事実が言いたいわけじゃないこの句のムードに、今日はちょっと騙されておきたい気分。

『寺山修司短歌俳句集 海に霧』(集英社・1993年)より。