春の夜や檸檬に触るる鼻のさき  日野草城

なんと鮮烈なイメージ。香り高い檸檬が鼻先にあれば当然さわやかに嗅覚を刺激するはずだが、あえて「触るる」と触覚に転じたところで、香りのみならず檸檬の肌の冷たさを表現し得ていて、その冷たさがそのまま春の夜の空気感にひそむひとすじの冷えにつながってゆく。
加えて、檸檬を鼻先に触れさせている人を想像すると、何しているの?とつっこみたくなるような状況で、キュートさも兼ね備えている。

室生幸太郎編『日野草城句集』(角川書店・平成十三年)より(『花氷』所収とのこと)。