かなしからずやチューリップ影もチューリップ  川口重美

チューリップの影が、しっかりチューリップのかたちをしている。それは確かにそこにチューリップが存在していることの証明であり、通常は嬉しいことのように思えるが、重美は「かなしからずや」と述べた。チューリップの影がまごうことなきチューリップの形をしているということは、チューリップはチューリップ以外の何ものでもないということで、確かにそこにチューリップが存在して間違いないということ自体が、ふと「かなしからずや」と問いたくなる気持ちを呼び覚ますこともあると、なぜか納得できる部分が自分の中にもある。これが、そのままかなしいもの(たとえばすみれとか水仙とか?)であれば、このひたひたと打ち寄せる明るいかなしみの味わいは出ないわけで、どこまでいってもこの句は、チューリップなのである。

「俳句」2013年3月号、宇多喜代子エッセイ「俳句と歩く」引用より。『川口重美句集』に所収。