犬抱けば犬の眼にある夏の雲  高柳重信

抱かれた犬は、そびえたつ夏の雲を見ている。まるで犬が夏の雲を欲しているかのようだ。かつての野犬たちは、丘や崖から雲の峰と対峙したであろうが、飼われてなおその野性の記憶が犬の奥底にかがよっているのを、切なく思いやる作者の繊細な心に、私も心を重ねたい。

『前略十年』(酩酊社・昭和二十九年)より。