掠めしは『天狗』の影か初あらし
たまには、俳句関係以外の本を取り上げることにしたい。
ということで、書架より、大坪砂男『天狗』(国書刊行会 1993年)を取り出してみた。
大坪砂男(1904~1965)は、探偵小説家。
代表作は「天狗」で、個人的には、この小説は、これまでに読んだ作品の中でも特に印象深い短篇のひとつとなる。
1948年に発表された作品であるとのこと。
内容は、避暑地が舞台で、そこで片手に詩集を携えた気位の高い女性を、主人公の男性が実に取るに足らない理由で抹消しようとする異色の犯罪小説となる。
はじめから終りまで、ひたすら馬鹿馬鹿しい内容の小説なのであるが、それがきわめて理知的な縷骨の文章で綴られており、その点もまたなんとも可笑しい。
実に奇抜な方法によって鮮やかに完全犯罪が成し遂げられるわけであるが、結局のところ、この小説における一切は、もしかしたら主人公の単なる妄想の中での出来事に過ぎないのかもしれない。