秋灯下幻像『雪はことしも』より
『雪はことしも』(新人物往来社 1999年)は、別所真紀子の俳諧をテーマとした小説集である。
別所真紀子は、1934年、島根県生まれの小説家。連句誌『解纜』主宰。著書は他に、『「言葉(エクリチュール)」を手にした市井の女たち―俳諧にみる女性史』(1993年)、『つらつら椿―浜藻歌仙帖』(2001年)、『芭蕉経帷子』(2002年)、『古松新濤―昭和の俳諧師清水瓢左』(2006年)、『共生の文学―別所真紀子俳諧評論集』(2006年)、『数ならぬ身とな思ひそ―寿貞と芭蕉』(2007年)などがある。
本書のタイトルにもなっている「雪はことしも」は、芭蕉と弟子の越人の交流を描いた作品。
香気を伴う格調高い文章で綴られており、読んでいると、まるで精緻な織物(タペストリー)を眼前にしているかのような趣きがある。
さらに、そういった文章の気品や描写の細やかさに加えて、全体を通してきわめて綿密な構成がなされており、作品を辿っているうちに、あたかも自らの存在自体が当時の時代へと実際にそのまま赴いているような感覚をおぼえるところがある。
また、この作品は、俳諧に関する小説であると同時に、ひとつの評論といってもいいであろう。
一体どれ程の俳諧に関する知識が、その礎(いしずえ)を成しているのかと考えるだけで、目の眩むような思いのするところがある。
この「雪はことしも」の次に収録されている、凡兆と羽紅を主人公とした「ちり椿」も、また素晴らしい出来栄えの小説となっている。