わく惑亂らんらん

2015.9.28 書肆侃侃房刊行
堀田季何歌集『惑亂』より。

季何さんの歌集『惑亂』が日本歌人クラブ東京ブロック優良歌集賞だそうです、おめでとうございます。なので今日は『惑亂』を読みます。

僕の知っている季何さんは、白い綺麗な顔でいつもにこにこしていて、優しい人という印象。居心地が良いので一緒に句会したり飲んだりするのがとても楽しい。

本当は(というと失礼だけど)ものすごく頭の回転が早い人で、芸術に対してかなり厳しい目や激しい想いがあるはずなのに、それをあまり見せることなく、ほのぼのとしているところなんかが、とても良いなと。

苦労話を垂れ流すことなく、代わりに美を歌に籠める辺りも、読んでいて素敵だなと思いました。

ではさっそく。

ぬばたまの黑醋(ず)酢豚を切り分けて闇さらに濃く一家團欒

好きな歌。ぬばたまって黑醋酢豚に使うのねと。酢豚ってなんでパイナップルが入っているんだろう。

眩しきは玄(くら)きと似たりけさの日にわが知る街は輪郭なくす

世界がぼやける時。

ひさかたの月光假面ゆめに立ちわれに結社と訣別せよと

会費払っちゃったし、それは無理です。

扉ひらき山手線は品川の空氣吐きすて田町を吸へり

次の駅では田町も捨てて。

本物の季何に贋者と見破られ家を追はれぬいづくへ行かむ

世界に一つだけの季何さん。

繪の中の桃うまさうに見ゆるなり繪の前の桃くさりはじめて

中の方の桃は永遠。

絶望はゆつくり来るの。神様が少しよそ見をしてゐるすきに

これも大好きな歌。絶望はゆらゆらくる、さっと来るほど優しくない。

甘言は右の耳から腦とほり左の耳へそして戻りて

甘言はじっくり味わいたい。

割箸にゑぐりとられし眼球はこぼれおちたり別の魚に

悲哀はいつもどこか滑稽。

だんだんと両目の蓋の薄くなる陽だまりにゐて泣き出づわれは

あたたかいから、少し泣こうか。季何さんはシャイだから、きっとこっそりと泣く。

人間である不安即人間でなくなる不安。 レモネード旨し

とりあえず人間で。そしてレモネードで。

そこよりも安い値段で受けますよ五百圓でも五億圓でも

手広い、すんごく。

空にありながら死を得るよろこびを鳥は語りき海わたる夜

鳥らしい生き方の。

中年がしつこいままに老いていくそんなソースの染みになりたい

醤油よりソース。

金魚玉の水たゆたふを見つめつつ金魚となりぬ美(は)しき白日

はっと金魚に。美しき白日。

さいころの一の目が天睨むときほかの目はみな視線そらして

一の目の赤きが睨む。

馬よりも麒麟うつくし濡ればめる麥酒の罐を翔る晝すぎ

馬より、麒麟。この歌、歌集に書いてもらいました。

出窓より民が汚物を抛りゐし十七世紀パリを想へり

あの頃は。

漢字の表記にかなりのこだわりがあるけれど、うまく変換できないので、ぜひ歌集で読んでみて下さい。

美とユーモアのある歌集。売り切れたら後悔しますよー。

じゃ

ばーい