『定本 中也断唱』を読んでみた 前編

福島泰樹『定本 中也断唱』2010.2思潮社刊行

中也が好きだ、とか言ったら、いやいやそんなもんみんな好きだよ、今さらなんじゃい、ガッカリでやんすと笑われそうだけど、まぁ、たまには良いじゃないですか。中、高校ぐらいでみんな中也、朔太郎、重吉なんか読んで、あぁ僕も詩人さなるんだ、と男の子なら一度は思うんじゃないかなぁ、あ、女の子はだいたいもうちょいcoolです…。

東京さ行ったらみんな青白い顔して虫食いのボロを着て、手なんかぷるぷる震えるアル中で…、ゲホホっ!たまに血を吐く。尾道に居る頃は文芸に関わる人はみんなそんな危ない連中だと思っていました。もちろんそんな事はなくてですね、むしろみんな立派なもんで…、靴なんかつやつやで、ネクタイなんかぴっとしててですね、現実はセチガライのです、生活をしなけりゃいかんわけです。デカダンってあーた、そうもいかんのです、僕も今年29ですからね、と。

たまにですよ、たまーにですが、郵便ポストを若き日の長渕のような893キックでガスガスやりたくなったり、スポポポポ!っと人ん家に卵ぶつけたり、ロンドンコーリング!と叫びながらベースを大地に叩きつけたり、古池やー、ガスガス割るぜ窓硝子ー!うりゃー、ばりん!無季だった、もいっちょ!五月雨やー、うりゃー!ばりん!とか言いながら金属バットで窓を割りまくり、やがてマッチョな体育教師に押さえられ、俺たちゃ腐った伝統派じゃねぇ!とか言ってみたかったりしなくもないのです。いいえ、しません、断じてしません、僕はだいたい見た目通りおとなしいのです、そして今日も会社に行くのです、えぇ、ぎゅうぎゅうの小田急に乗って、タハハのハ。

そんな日は、そんな日は、これを読もう、はい、福島泰樹『中也断唱』、これ中也の詩だけじゃなく、中也の事を知っていると(白洲正子とか小林秀雄とか青山二郎ぐらいでサクッと読む感じで良いんじゃないかな)もっと楽しいですよ。

ゆくのだよかなしい旅をするのだよ大正も末三月の事

ゆくんだよ、ゆあゆよん、あははのは、あぁ悲しい、悲しいは詩になるし美しい。

蚊屋はいらねえ蒲団にもぐって寝るからに荷造り上手になりにけるかも

蒲団にもぐって寝るから、ってのが中也らしい、蒲団の中で、僕は悔しい、とか泣く中也よ、好きだぜ

たった先達(せんだって)逢ったばかりのもとへゆく未練だらだら見送ってやる

有名な、中原中也と長谷川泰子と小林秀雄の関係ね、というより小林秀雄に女盗られちゃったってだけな話なんだけど…。ちなみに小林秀雄はかなりモテたらしく(わかるよね)、中也は無茶だから全然モテなかったらしい、あぁ中也、好きだぜ。

関係無いけど昔突如、彼女に「私はあなたの母親じゃない」とフラれてしまい、えっマジかよと、未練だらだら彼女の車を見送った惨めな気持ちはきっとこんな感じなんだろう

茶碗急須ギヤマン細工 割れものの包み届けてやるよ小林

あぁ、悲しい、これ今回一番好きな歌です、粉々にしてやろうかしらんとも思いながらも優しく包んで届けるんだろうな、あんまりじゃないか小林、って小林秀雄の事ね、小林と呼ぶとなんだか新鮮、若き日の小林秀雄を感じる、中也、頑張れ!

笑うなよ苦しく辛くいるからに郊外電車の窓もしめてよ

あぁ僕は悲しい!窓なんか閉めてよ!とまた飲んでは詩を書くんだろうな、存在そのものが詩のような人だったんだろうなぁ。

なにがなんだかわからないからさよならを遠慮しながら言っておるのだ

男はね、繊細なんですよ、みんな頼みますよ、ほんと。

鉄橋のようにわたしは生きるのだ辛い三月四月を終えて

辛い時、あぁ辛いほんと辛い、いやほんとよ、と声を大にして言いたいけれど、なかなかそうもいかないのよ

美しき女なるゆえ飲んだくれ昼夜わかたずいるよ七日は

中也ファンからは長谷川泰子は人気ないだろうけど、長谷川泰子のおかげで中也が無茶な詩がどんどん湧いた、ということもあると思います。

ゆくことも留まることも今は唯 こうして朝から飲んでいるのだ

酔っぱらいってのは哀しいのですよ、だから許してとも言わないけどさ

人生の辛さ悲しさ憂愁を噛みしめており烏賊を裂きつつ

ね、酔っぱらいは哀しいの、怒ったらいけません

苦労してきたのだ俺も袂からそっと手を出し眺めるほどに

繊細な中也に現代の朝の小田急線に乗ってもらったら、さぞ地獄のような悲しみの詩を書いてくれるだろうな、と、今思った。

ぜんまい仕掛の兵隊の真似してみたが春昼つらきことばかりなる

アハハ…、アハ、……。

あぁ中也、哀しくて優しいあんたが好きだぜ

以下は引用です、哀し過ぎるでしょ、る理ちゃん引用色変えてね。

彼はビールを一と口飲んでは、「ああ、ボーヨー、ボーヨー」と喚いた。「ボーヨーって何だ」「前途茫洋さ、ああ、ボーヨー、ボーヨー」と彼は眼を据え、悲し気な節を付けた。私は辛かった。
小林秀雄『中原中也の思い出』

あぁ、僕もほんと、ボーヨーボーヨーですよ、アハハのハ、うそうそ、うそうそ、よ。

ばーい