百年に一度のデレ

いやー、結婚しました。数日前に酔っぱらって終電を逃し夜の街をうろついてたとは思うとなんだか実感がありません。

デレ俳句はゆーむの十八番になりつつありますが、無事結婚したので僕も何か書こうかと思います。

今でこそ髪も黒くなりわりとまともな人間になりつつありますが、ほんの2、3年前には人知れずロクデナシで、卯波でまかないを食べさせていただいたり、俳句の兄さん姉さん達にも大変迷惑をかけていました。目の下にクマを作っては青い顔でウロウロゲーゲーしていたもんでした…。

今は7回に1回ぐらいしか終電を逃しませんが、あの頃は3回に1回ぐらいは終電を逃していたんじゃないかなと…。友達と会うと嬉しくって元気なので、僕が荒れるという姿はあまり想像できないかもしれないけど、今日の僕は周りの人達のおかげで元気です。

捨て猫を拾うかのようにA子に拾われた僕はすくすくと立ち直ってきました。

俳句の世界で辛い事(ちいさーい事だけど)があると酒を飲みながらブツブツブツブツ愚痴を言っていました。

A子は俳句をやりませんが、うんうんと聞いてくれ酒の相手をしてくれます。

俳句のできそうにない場所には行きたくないとデートはたいてい神社仏閣でしたが、それにもよく辛抱してくれました。俳句はどこでもできるとやっとこさ悟って普通に近いデートをするようになったのはここ一年ぐらいじゃないかなと…。

A子へ、あなた偉い(百年に一度のデレ)

飲みに行かせてくれなくなると困るので、僕の遊び場や付き合ってる人達のところへ一緒に連れて行くようになりました。この作戦は大いに成功で僕は変わらず飲み歩く事ができたのでした。

総合誌をペラペラめくったり、新しいアンソロジーが出たりすると、僕の友達はたくさん載っているのに、あまり僕は出たりしないのでA子が寂しそうな顔をしますが、これでも頑張ってるので許して欲しいところ。A子よ、僕の周りの人が売れっ子なだけで普通はそんなにね、載るもんじゃないんですよ。

川柳の樋口さんがA子をとても可愛がってくださり

樋口さん「麒麟くんは売れないけど、商業的な意味では売れないけど、良い句を作るからプロにウケる俳人になったらいい、売れはしないけど」

と言ってくださったのが救いです。生活するだけは働くので安心してください。

さて、…僕とA子の話とかもういい?

…ちょっとウザイ?

ま、続けるけど

さ、世に「A子ノート」という本が存在します。僕はここ数年句帳という物を持っておらず、作った俳句はすべてメールでA子に送ります。A子はそれをせっせと清書してくれ小さなノートに書き込んでくれます。今そのノートは三冊目となり、句数を見ると、ざっと四千句以上ありました。

いいでしょ?あ、ウザイ?今回だけ許してくださいねん。

A子よ、あなたほんと偉い!(百年に一度のデレ)

さ、今回それを読み返してみたところ、A子の機嫌を取ろうとして作った句がたくさんあり、まさに句日記。

今日はA子のために作った句、もしくはA子のおかげで作れた句を発表しようと思います。

え?そんなの別に読みたくない?

いや、でもやるけどね。まぁお祝いだと思って読んでやってください。そしてもし良かったら心の中で(声に出しても可)A子、偉いと言ってやってください。

さてと、始めます。

鳥雲に眠たくて君送らざる

いやー、ごめん

揚雲雀するすると来る一輪車

A子は一輪車が得意

雀の子雀の好きな君とゐて

A子が特別雀を好むために、機嫌を取ろうと思って作った句。A子が唯一覚えている僕の句。越智くんが『手紙』の中で取りあげてくれてA子の機嫌がとてもよくなり、僕は心の中で越智くん偉い、好きよ、とつぶやきました。

紫陽花や口に出しては謝らず

樋口さん曰く「麒麟くんは一見チャラいけどかなり頑固なところがある」
赤とかピンクとか花柄とかを好んで着るくせにかなり頑固で「ごめんなさい」が死んでも言いたくない。「ごめんなさい」とは思っているんですが…。

鈴蘭や歌の上手な姉妹

A子家は音楽一家で妹が合唱をやっているので、喜ぶと思って作った句。僕がカラオケ嫌いで悪いと思う、謝らないし行かないけど。

誰よりも朝顔市を楽しみに

歳時記的なイベントがすなわちデート。朝顔市は早起きで辛いけどA子も楽しみにしている(はず)。

蜜豆やまことに嘘が下手な人

僕は嘘がうまいけどA子は嘘が下手

紅葉狩連れて行かざる事をまた

俳句のイベント続きで、どこにも連れて行ってあげられなかった頃の句

枇杷の実を分けて食べたる仲間かな

A子の習い事での教室は学年ごとに名前が付くらしく、「枇杷」がA子のクラスの名前でした。卒業記念に枇杷で数句作り送った句のひとつ。

ふらここやすぐに泣く子は優しき子

A子母「よく泣くすぐ泣くほんと泣く」
辛い事があってAが泣いてたので慰めるために作った句。

春の雨それぞれ違ふ事をして

だからごめんって…。

さて、A子の産まれは信州上田、お祖母様が今も上田で、東京から上田に遊びに行っていたA子のお祖母様のご機嫌をとるために作った句が以下二句です。

稲穂かな六文銭の旗の国

秀忠を足止めの城花芙蓉

うまくないなぁ…、でもお祖母様が大喜びだったらしいので、それでいいのです。

叱られて秋の扇を握りけり

辛い事があって、半狂乱の日々を過ごし結社を辞めてしまおうかとも悩んだ時期があり、師匠に葉書を出して厳しい返事がいただいた時の句。A子も師匠も愛してるぜ。

昔、銀座ライオンでゆーむに
麒麟「君ねぇ、師匠と華ちゃんと、両方が溺れてたらどっちから助けるんだ?」って言った事あるなぁ…、ごめん

さ、ゆーむがどっち選ぶかは書かなくても…わかっちゃいかんような気もするけど。

爽やかや君のパーマがくるんくるん

A子がパーマになったら麒麟はパーマの句を作るんです。機嫌がよくなるんだから。

三味線の予習復習竹の春

A子は新宿で三味線を習っています。それが僕にはなんだか嬉しい。A子が三味線のお師匠さんになって僕が受付するのが夢だぜ、って言ったら青い顔してたA子よ。

柿剥いてくれし三味線最初から

僕はね、丹下左膳みたいになりたいの。

水澄むや鯉は病気になりやすく

A子は波郷さんと関係ないけど何度も一緒に波郷の墓参りしてます。深大寺での句。

よろよろや松の手入れに口出して

僕が老人に憧れるようになったのは、多分木枯さんにお目にかかってから。こうなりたい、という句。僕は冗談でよく老いぼれたフリをする。

秋の暮走つて抜ける植物園

深大寺植物園にて
麒麟「へうたんはどこ?僕はへうたん見ないといけないんだよ!」とわめくのでA子が必死でへうたんの場所を探してくれました。ごめんよ。

へうたんの中に見事な山河あり

ほら、おかげで気に入りの句ができました。

謝らぬつもりなれども柿買ひに

謝らないけど察して欲しい。

凩やうどんがぽんと明るくて

贔屓のうどん屋さんがあって、風邪をひいたりするとよく行く。でも一人では入りにくいので必ずA子を連れていきます。木枯さんが好きなので、凩でなんとか一句作りたかった頃の句。

みな君のくれし蜜柑と思ひけり

風邪引いてしかもお金もない僕に、A子はうどんを食べさせてくれ、蜜柑も買ってくれました。お金がないときは、いつも句で払います。

風邪の夜の君きよろきよろとしてゐるか

風邪引いてA子が会社休んだらこうやってちゃんと句をメールで送ったりします。そう、意外とマメなんです。

ぜんざいやふくら雀がすぐそこに

地下で甘い物を買って、三越の屋上でよくデートします。

冬麗やぱつと明るきオーケストラ

A子ママがヴァイオリンをやるので定期的に演奏会に行きます。そして良かれと思って俳句を作ります。

公魚や天ぷらにして五つ六つ

大好きな長崎料理屋がありますが、ぜいたくだと言ってなかなか行かせてはくれません。

京橋や鶯笛はポケットに

僕が買ってくれとわめくのでA子が赤い鶯笛を買ってくれました。この句は松尾さんの特選になって救われた句。松尾さんは僕に優しいので(みんなに優しいんだけど)A子も松尾さんにはとても懐いています。

ちなみにA子は

一番、山田真砂年さん
二番、阪西敦子姉

と順に懐いています。僕が寂しそうな顔をしていると「村上さんに電話でもしたら?」と言います。よくわかっています。

花石榴父のお客はみな怖し

林芙美子旧居に行った時の句、これもまたデート。

言はぬけど扇の柄を競ひけり

恥かくといけないから、扇は良いやつ持たせてくれ、とA子からカッコいい扇をもらい愛用しています。鮎が跳ねてる絵柄です。

柿吊るす事の巧みな嫁が欲し

『豈』に載る頃を考えて、A子へのサービスのつもりで作った句。

一八もいつか引退秋扇

落語に出てくる一八(太鼓持ち)が好きです。そういえば僕は句で払って酒を飲ませていただいてる事が多いので…、いや、でも一八にも引退がくる。

麒麟「いよっ、大将!さすがだねぃ、あたしゃ大将の顔見たら一句浮かんじゃったよ、えぇとね…」
なんて言ってもみたい、結構似合うと思うんだけど。

呼ぶ方も来るも無茶なる夜長かな

「村上さんとこに行って来ます」は僕の魔法の言い訳で、この場合は叱られない事が多い。あと「いや、でも敦姉一緒だから大丈夫だよ」もよく使う言い訳。

新蕎麦が天ぷら蕎麦でいい気分

深大寺にへうたんがぶらぶらしてる蕎麦屋があって、A子にあれをもらってきなさいと無茶な事言ったけどダメだった…。

天丼を食べてから見る花火かな

柴又に大好きな天丼屋がある、僕は気に入ると同じ場所で、できたら同じ席で同じ物を食べて飲みたがる。

夕べからぽろぽろ泣くよ鶯笛

木枯さんが亡くなったのを知った時、A子が泣きながら電話をくれたのが嬉しかった。僕は信じられなくて涙も出なかった。人が死ぬのはほんとに嫌。ちなみにA子は一度木枯さんにもお目にかかっています。

恋人の父親と食ふすき焼きよ

A子の家に食事会に行き、たらふく食べ、飲み、そしてバタンと倒れ、A子の部屋で二時間寝て、それから逃げるように帰りました。気持ちは嬉しいけどやっぱり気疲れしてしまいます。

大好きな春を二人で見るつもり

入籍の日の朝に、ふっと何か喜ばせてやろうと思い付き、内緒で短冊五枚を書いて、入籍手続き後に外で昼食を食べつつ渡しました。泣いていたので、まぁ成功。僕、意外とこういう事します。指輪も買ってあげられなかったので、句で払う。これが独身最後の句です。

自分の句を自分で管理しない事は多分いけない事ですが、A子が書いてくれるうちはこのノートを続けてもらおうと思います。嫌にならないように、できるだけ清書したくなるような句を作るようにしています。その事が僕の句に良い影響を与えている気がします。

A子へ

幸せになっていきましょう。

あと…、句会と勉強会と村上さん家はこれからも行かせてください。あと…、卯波と銀漢亭も。月に一度は、成富で蕎麦が食べたい…。あと、歌舞伎と寄席も行きたい…。

えっと…

幸せになっていきましょう。

そんじゃ長々とすみませんでした。次からは通常のきりんのへやです。

そんじゃ

ばーい!