2013年10月10日

雁や『火棘』を幾度も開き

『火棘 兜子憶へば』(邑書林 1995年)は、赤尾兜子(1925~1981)の弟子であった秦夕美の著作。
『火棘』は、「かきょく」と読む。
赤尾兜子の作品から88句が選出され、その1句づつに懇切な鑑賞文を付した内容となっている。

この『火棘』については、たしか最初、図書館で借りてきて読んだという記憶がある。
それでも現在、本書が手元に存在するのは、やはり読了後、入手しておく必要があると思ったゆえなのであろう。

個人的には、赤尾兜子の第3句集『歳華集』、とその後の『玄玄』の作品を相当に読んでいたという記憶がある。
秦夕美の鑑賞文もまた、この『歳華集』と『玄玄』の作品に重点が置かれている。
それゆえ、この時期の兜子の作品を読む上で非常に参考となった。
本書では、実に見事な読みが展開されており、それこそ作品の一字一字に至るまで注意が払われ、赤尾兜子の作者としての意図を余すところなく掬い上げている。

『歳華集』や『玄玄』は、現在読み返しても、高い水準の句業であると思う。
赤尾兜子は、1981年に56歳で惜しくも亡くなってしまうが、もし生きながらえていれば、今後も優れた作品を数多く残していたはずである。

以下は、『火棘』に取り上げられている作品よりの抄出。

片蔭や万里小路(までのこうぢ)に蟬鳴くも   赤尾兜子

大雷雨ラムネ飲みいるわれは男

まひまひや結緒(ゆひを)なかなか解けざりし

花から雪へ砧うち合う境なし

虚室のかなた白盡(つく)し飛ぶ冬鷗

急ぐなかれ月谷蟆(たにぐく)に冴えはじむ

秘す花のあらはれにけり冬の水

狼のごとく消えにし昔かな

亀鳴くや山彦淡く消えかかる

ときじくの小鼓を聴く春の鹿