2015年4月23日

海底の麗らや魚のしらほねに

初期の単語群は、生存のための単語群だったにちがいない。それは乳を呼び、水を呼び、肉や果実を呼んだ。地形を教え、天候を教え、獣やすべての食物たちの布陣を教えた。季節を数え、家族を数え、収穫を数え、死者を数えた。言語とは地水火風という四大の圧倒的な渦の中に登攀の労苦をもって生きる空間を開こうとする人々の、みずから岸壁に打ちこんでゆく手がかりの金環のようなものだったのだと思う。

管啓次郎(2003).『コヨーテ読書 翻訳・放浪・批評』青土社 pp.227