2015年6月1日

薫風の行き着く先として文棚

延滞中の本を抱えて、図書館に駆け込んだ。本を返し終え汗が引くのを待つ間、館内を巡ると、閉館15分前だというのにまだ閲覧している人の姿がちらほらと見えた。その中で、児童図書のコーナーだけはしんとしていて、吸い込まれるように足を踏み入れた。色とりどりの背表紙を目でなぞる。その途中、あ、と声を上げそうになった。懐かしい本が置いてあった。白く美しい人と、その人を薄い三日月に腰掛け見上げている少年の後姿が描かれた表紙。たつみや章の『月神を統べる森で』は、私がはじめてアイヌ民族に出会った本だ。その時、閉館の音楽が鳴り始め、迷わず貸出受付に持っていった。
全ての発端となった本を抱え見上げると、図書館は、夜にぽっかりと浮かんだ光の箱のようだった。