若竹のまはりの花があらはに黄
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エアコンのリモコンが見つからない。
六畳の部屋は荷物であふれていて、どこかとんでもない場所に紛れ込んでしまったとしたら部屋をひっくり返さなければならない。ベッドの下は探したがなかった。部屋をひっくり返すまえに、まだ確認していなかったゴミ袋に手を付けようと思った。
手袋をはいて、用意した別のゴミ袋に中身を移し替える。なさけない作業である。
そのとき、かけっぱなしにしていたyoutubeからマッキーが流れ始めた。
「もう恋なんてしない」
別に恋人と同棲していたわけではないが、大学生になって一人暮らしを始めたこの一年間の感慨がにわかに湧き上がってきた。
2本並んだ歯ブラシも 1本捨ててしまおう
君の趣味で買った服も もったいないけど捨ててしまおう
“男らしく いさぎよく”とごみ箱かかえる僕は
他の誰から見ても一番 センチメンタルだろう
(槇原敬之「もう恋なんてしない」1992年)
次第におれは自分が古い恋人のものを捨てていく錯覚に陥った。ゴミ袋からゴミ袋へと菓子の袋などを移し替えるうち、おれはさいきん誰か大切な人と別れた気がしてきた。
「懐メロ 90年代」で検索して出てきた動画リストはマッキー特集に入ったらしく、その後も名曲を流し続けた。マッキーはそのうちに自分の夢を見つけていったが、おれのエアコンのリモコンはついに見つからなかった。