あぢさゐを持つたあぢさゐくらゐの手
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チナミさんからいきなりTwitterにリプライが来た。
「バーに行こう」
「いいですね。OLはいますか?」
「ごめん。OLはいない」
「りょうかいです」
おれは大学の近くのバーに行った。
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どういう経緯かと言うと、こういう経緯である。
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チナミさんは大学の先輩である。
あれはたしか三月か四月かだったと思うが、同じく先輩のナガサワさんとチナミさんとでピザ屋に行った。なんの話をしていたのか忘れたが、チナミさんは「ホリシタくんにはさあ、OLがいいよ」と言った。おれが交際するとしたら、である。おれは好青年なのでよくこのテの心配をされる。
チナミさんの言い分はこうである。ホリシタくんの需要を考えたら、疲れた年上のひとがいいと思う。ホリシタくんは疲れを癒してくれそうだから。頑張ってるホリシタくんの応援もしてくれるよ。年上の女のひとは、大学とかじゃなく、もっと上のOLとか。朝起きたらホリシタくんがお弁当を作ってくれている。不器用かもしれないけど、その気持ちがうれしい。疲れたOLを狙おう。疲れたOLはたいていバーにいる。バーに行こう。
はたしておれに疲れたOLを癒すことができるかどうかは分からなかったが、そう言われればたしかに疲れたOLもいいな、という気になってきた。それでおれは、ハタチの誕生日が来たら二人にバーに連れて行ってもらって、疲れたOLを探すことにしたのである。
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話は冒頭に戻る。
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いそいそとバーに向かったらチナミさんだけではなくナガサワさんもいた。11月の誕生日を過ぎてからという約束だったのがなぜいきなり早まったのかといえば、単に一緒に飲んでいた二人がおれのことを思い出し、勢いで呼びつけただけのことだった。はじめてのバーに緊張しながら、未成年のおれはジンジャーエールを注文した。
しかし肝心のOLがいない。意味が分からなかった。なぜおれは疲れたOLのいないバーにいるのだろうか。おれは混乱した。ああそうか、これが坂口安吾が「文学のふるさと」に書いていた「アモラル」か、と思った。
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そのときおれは気づいた。バーのバイトの子が、体育で一緒のフクシマさんだ。大学では体育が必修で、おれは弓道の授業を取っていた。体育は学類(筑波大学は学科のことをそのように呼ぶ)を隔てない。フクシマさんは芸術をやっている人だった。何度か話したことがある。
まずいぞ、と思った。バーにいるところを知り合いに見られるのはとても恥ずかしいことのような気がした。疲れたOLを狙う下心が雰囲気ににじみ出ていたらおしまいである。おれは顔から火が出る思いでジンジャーエールを飲んだ。誕生日が来たらおれはまたバーに来るのだろうか。