服になる綿の畑や夏燕
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現代日本語学の授業を受けていたら先生がだしぬけに「三匹のこぶた」の話を始めた。
「あんたら、三匹のこぶたの名前知ってるかい?」
「三匹のこぶた」に名前はあっただろうか。まさかブーフーウーではあるまいし。そんなことを考えていたら先生は「ブーフーウーってんだよ」と言った。
ちがうだろ。
「ブーフーウー」といえばNHKの『おかあさんといっしょ』内で放送された人形劇である。放送期間は1960年~1967年にかけてで、現在も続く『おかあさんといっしょ』内人形劇の初代作品である。三匹のこぶたのキャラクターがモチーフで毎回歌などを歌っていたようだが、映像は最終回とその前の回しか現存していない。この劇の中でこぶたたちに与えられていた名前がそれぞれ「ブー」「フー」「ウー」なのであって、原話では特に命名されていなかった筈である。
ちょっとちょっと、学生が勘違いしちゃうでしょ、と思っていると先生は「むかしNHKでやってたんだよ」と付け足した。それでもちょっと不正確なんじゃないかなあ、と思った。
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それにしてもなるほどこの先生は「ブーフーウー世代」であったかとおれはすこし感激した。NHKの人形劇は1960年から今に至るまで、数年ごとにキャラクターを変更しながら放送され続けている。「おかあさんといっしょ」を見ている子供は多いので「人形劇何だった?」と尋ねれば相手のおおよその世代が分かるのである。ネットでこの手のやりとりはときおり見かけるが、初代「ブーフーウー」だという人は初めて見た。ちなみにおれは「ぐ〜チョコランタン」(2000-2009)の初期が親しい。実際には「ドレミファ・どーなっつ!」(1992-2000)を長く見ていた筈だが、幼児期の記憶が乏しいのであまり覚えていない。
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いっときNHK教育の子供向け番組の歴史を調べていた時期があった。そのときに知った中でいちばん衝撃的だったのが『おかあさんといっしょ』内人形劇のある一作だった。それは1969年から1971年まで放送されたシリーズ最短の作品だった。
「とんちんこぼうず」
「ちんこ」だ。時代のおおらかさを感じる。
タイトルで想像がつくが、山寺の小坊主たちが繰り広げるとんちを主軸としたストーリーだったようである。映像は現存せず、数少ないスチールが残るのみである。
出てくる小坊主三人組の名前を知って驚いた。
とんねん・ちんねん・かんねん
「とんちんかんぼうず」じゃないか。
どうして「ちんこ」が出てきてしまったのか。「かんねん」君はどこへいってしまったのか。「とんちこぼうず」では駄目だったのか。
いや――当時の放送を見ればこれには合理的な理由があったのかもしれない。しかしそれはもはや叶わぬ夢だった。本作に限らず、この時代の放送映像は大方が現存しない。おれは言い難い無力感を覚えた。