2015年7月19日

峰雲のせり出してゐる林かな

ゼロ年代はノスタルジーの回収に費やされたと思っている。『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001)から始まった昭和ノスタルジーブームは『ALWAYS三丁目の夕日』(2005)に至って日本中を席巻した。ノスタルジーはいつの時代にだってあっただろうが、世紀が変わったら時代まで変わったように思われたのかもしれない。

おれの場合はクレしんでもALWAYSでもなく『百獣戦隊ガオレンジャー』でその時代を感じた。放送期間中の2001年に『百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊』というOVAが発売された。スーパー戦隊シリーズは毎年前年の主人公たちと共演するOVAを出しているが、ガオレンジャーはシリーズの第25作目だったので、それを記念してそれまでの全戦隊が出てくるという豪華な話が作られた。敵に「戦士の魂」を抜かれたガオレンジャーの面々が、かつて地球を守った先輩戦士たちと出会うことでふたたび立ち上がるというストーリーである。シリーズ第二作『ジャッカー電撃隊』(1977)の番場壮吉(演:宮内洋)が狂言回し的な役どころで出てくるなど妙にマニアックで熱かった。他、場面の各所で歴代24作の当時の映像が大量に流れたり、過去戦隊のマニアックな挿入歌が採用されたりしていた。

エンディングテーマがすごかった。『燃えろ!スーパー戦隊魂!!』というやつで、水木一郎と堀江美都子がひたすら歴代戦隊の紹介をしていくのである。作詞は桑原永江、作曲・編曲は亀山耕一郎。

冒頭、初代『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)を紹介する歌詞がこのOVAの性格をよく表している。

歴史の始まりゴレンジャー

歴史の始まりゴレンジャーときたか、って感じだ。ちなみに他の戦隊はというと「トランプマークのジャッカー」「いかす忍法きめろカクレンジャー」といったところ。ゴレンジャーだってボールを使ったカッコいい必殺技あるのにねえ……。おれだったら「すごいボールだゴレンジャー」とかにするよ。でもそうではない。25作も続いてきた(第1、2作は原作者や放送期間が違うので別シリーズだという史観もあるのだが)歴史あるシリーズの最初だ、偉大だ、ってところに2001年におけるゴレンジャーの価値がある。歴史が消費される時代の幕開けである。

この予兆は前年度すでにしてあった。2000年放送『未来戦隊タイムレンジャー』はその名の通り時間をつかさどった戦隊だった。新世紀を迎える時代の興奮を汲み取ったのがこの戦隊だった。

一年間の戦いを終え、敵組織は壊滅。めでたしめでたし、で放送が終了すると思ったら、最終話が別に用意されていた。「スーパー戦隊大集合」とタイトリングされたエピソードがそれである。タイムマシンを持っているという設定を活かし、歴代戦隊の様子を見に行くという筋立てが展開された。やはり一年後の『ガオレンジャー』同様、当時の映像がふんだんに用いられている。

「君たちの最初の先輩、スーパー戦隊第一号だ」(秘密戦隊ゴレンジャー)
「こんな時代にもサイボーグ技術があったのかあ」(ジャッカー電撃退)
「変形システムを初めて使った巨大ロボ・ダイデンジンで勝ち抜いたんだ」(電子戦隊デンジマン)

といったせりふは、各作品が決して独立しておらず、一本の歴史に収束するものであることを匂わせる。戦隊ヒーロー大集合の企画は実はこれ以前の1989年、『高速戦隊ターボレンジャー』の第一話でも行われているし、あるいは『仮面ライダー』シリーズにおいてはもっと早くから行われているのではあるが、ゼロ年代がそのご歴史消費に走っていく経過を知っているいま、タイムレンジャーとゴレンジャーはそれらとは全く異なる位相にある、時代の幕開けのように思われるのである。同シリーズはその十年後、2011年の『海賊戦隊ゴーカイジャー』に至って、一年を通じて過去戦隊と接続することになる。ゴーカイジャーは過去の戦士(往年の役者がそのまま出演している)と出会い、力を授けられ、その戦士に変身できるようになる。一方で『仮面ライダー』シリーズもまた、この2年前『仮面ライダーディケイド』において、過去戦士に変身できる戦士を生んでいる。すさまじい時代だったと思う。

おれはこのような十年の中にあって、大人たちの歴史の消費に付き合っていった。テレビはゼロ年代の子供たちに『ゴレンジャー』をどう受け取らせようとしていたのかいまだにピンと来ていない。よく分からないけれどカッコいい、で充分だったのかもしれず、しかし、ある筈もないノスタルジーを錯覚していた少年少女もたしかにいた。

あのころ、19○○年とタグ付けされた映像を見ながらおれはその時代の実在を知った。いつも過去と現在との間にある断絶を気持ち悪いと思っていた。過去が実在することがそれだけで嬉しかった。だからゼロ年代とはおれにとってそういう時代だった。