熱らねばとべぬ重さの秋の蟬
羽田空港駅を降りて、初めて空港のラウンジを訪れた。バイト先で俳句甲子園を観に松山へ飛行機で向かうのだと話をしたら、余っているから行きなさいと優待券を手渡してくれたのである。まさに僥倖。
自動ドアの向こうのくらがりを見て、すこし怖気づいた。優待券だけが僕の頼りである。紙切れ1枚を、折り目がつかぬようにかすかに握った。たかがラウンジにはいるだけで大袈裟な、と思われるかもしれないが、田舎の商売人に育てられた僕からみれば異空間なのである。グランドホステスの姿勢が良過ぎて、自分の不甲斐なさに自信を失う。いかにも大学生といった服を着てきてしまったことをすこし後悔したが、ラウンジを進んでいくうちにクロックスを履いたおじさんを見つけて心底安心した。
噂に聞いていた通り、酒もジュースも飲み放題だった。20分強しか居られなかったが、ウイスキーをなみなみ1杯と生ビールを2杯飲んだ。貧乏性だな、とひとりで笑った。重たい胃袋のせいで、さらに猫背になった心地がする。ラウンジの片隅で、すっかり秋気を帯びた雲を眺めていた。
酒のせいかどうかはわからないが、その後の機内で貧血を起こし卒倒してしまった。介抱してくれたCAのお姉さんが美人だったのでなんだか得をした気分になった。薄目がちで見るとなおさらである。