2015年9月12日

コスモスがあふれてかつて睡つた丘

山手線に揺られていたら小学校の同級生だったゆみちゃん(仮名・当時11歳)にとても似ている子供が乗っていた。

小学生だったぼくは当時、たまたまゆみちゃんの隣の席に座っていた。算数の時間に小テストがあり、自分の解答を隣の席の子と交換して採点を行うことになっていた。ゆみちゃんの解答を赤鉛筆で採点していった。彼女は成績がよく、丸つけはスムーズに進んだ。ただ、とある1問にぼくの手が止まった。彼女は「0」を「〇」と書く癖があったのである。こころの天使が、「バツをつけてあげなさい」と言った。当時のぼくは文部科学省のイデオロギーに従順な「模範的」小学生であった。

天使「彼女が大人になってから恥をかかないように、やさしいバツを与えなさい」

しかし、こころの悪魔は彼女のゼロが「上から半時計回り」に描かれているのではなく、「下から時計回り」に描かれていることを見逃そうとはしなかった。

悪魔「マルをつけるんだ。これで彼女はまた満点。有頂天のまま死ぬまでゼロをマルで書き続けるんだ。どうだい、幸せだろ?」

ぼくは悩んだ。そして、その解答にちいさくバツをつけた。ぼくは「善良な」小学生を演じた。ゆみちゃんは先生に訴えた。

「ゼロだってわかるからいいじゃないですか!」

先生はぼくに向かって尋ねた。

「これは、マル、よね?」

ぼくが「その書き方はマルです」と答えると、先生は得意そうな笑顔を浮かべて言い放った。

「ゆみちゃん、次から、正しく書けばいいのよ」

ゆみちゃんは赤い眼に涙を溜めていた。席に着くや否や、机を殴って顔を伏せた。教室が静まりかえった。ゆみちゃんは「満点が……」と呟いたまま、動かない。ぼくはゆみちゃんに声をかけることができなかった。天使も悪魔も、そんなぼくの背中をさすってくれるだけだった。

やがて、ゆみちゃんはグレた。あのときぼくが悪魔に従っていたならば、今ごろ彼女はゼロをマルで書き続けてしまう、お茶目で善良な学生になっていたりしたのだろうか。ゆみちゃんの天使と悪魔は、彼女自身を愛してはくれなかったのだろうか。