轡虫一匹波音に勝る
この季節になると、もう何年も前に訪ねた九州の長崎鼻を思い出す。篠原鳳作の「しんしんと肺碧きまで海のたび」の句碑を見たくて出かけた。シンプルな四角い石は、地元のバスガイドも知らなかったくらい、ぽつねんと海に向かって草に吹かれて建っていた。句碑の裏側は「詩と美を愛する人々により」とだけ記されてあった。
鳳作は、二十六才で亡くなった芝不器男と入れ替わるように、雲彦の名で俳誌「天の川」に登場した。彼もまた三十歳で亡くなってしまう。「かの窓のかの夜長星ひかりいづ 不器男」。二人が出会う、夢のように素敵な場面を空想する夜長。