2016年10月19日

この駅は誰もが芋煮会のひと 

「これ、かまどのばさまさ持っていってけろ」と母に頼まれ、通り二つほど山側にある親戚の家へお使いに行った。頼まれた風呂敷の中身は母が内職で編んでいたカーディガンらしかった。土手の階段をのぼり、更に坂道を上るとかまどの家がある。勝手口の前で「いだが~?」と声をかけると、腰のまがったお婆さんが顔を出した。「よぐ来たな。あがってながまって」と言うので、おじゃましまーすと突っ掛けを脱いで上がり、「これ、カーディガン」と頼まれた風呂敷を囲炉裏の横に置く。お婆さんは茶箪笥から下してきた缶から白せんべいを一枚出すと水あめを垂らして伸ばし「か、け」と差し出した。頂きますと受け取り、水あめをこぼさないようにそーっとせんべいの耳から齧る。せんべいは少し湿気ていたけれど、甘くて天国のような味がした。これが食べられるのなら何度でもお使いに来ようと思った。

[かまどのばさま]分家のお婆さん [いだが~?]いますか?親しい家を訪問するときに掛ける言葉 [ながまって](ながまる)足をくずして楽にすること。 [か、け]さあ、お食べ、の意。[か]は、さあどうぞ的な意味合いで使われる。