2017年2月6日

これからの兵が冬すみれを摘んだ

平田オリザの『演劇入門』(講談社、一九九八)から少しだけ。平田オリザは現代演劇の位置づけを行った後に表現についての考えを示す。

「伝えたいことがある」近代芸術に対して、現代芸術、現代演劇のいちばんの特徴は、この「伝えたいこと」=テーマが、なくなってしまった点だと私は考えている。

として①それが本当になくなってしまったということ、②芸術の社会的役割の変化 を挙げる。
演劇は近松門左衛門の時代のようにジャーナリズムではなくなってしまい、メディアやプロパガンダの手段としての役割を果たさなくなった。それではなぜ芸術表現をやっているのか。その回答が以下。

「伝えたいことなど何もない。でも表現したいことは山ほどあるのだ」
 繰り返すが、伝えるべきものがないというのは、伝えるべき主義主張や思想や価値観は、もはや何もないということだ。(中略)

世界を、ありのままに記述したい。
私の欲求は、そこにあり、それ以外にない。
すなわち私は、現代演劇の役割もまた、この、「私に見えている世界を、ありのままに記述すること」のみだと考えている。

ーー
演劇の本から引用したが、自分の世界を、その他の何かを表現しようとしている点では演劇も俳句も変わらないだろう。「これからの兵が冬すみれを摘んだ」で、私は別に憲法改正反対、戦争反対と言いたい訳ではない。ただ、肌で感じている今を俳句で表現したいだけなのである。