2017年3月1日

荷解きのやはらかき三月が来る

3月ですね、3月とは全然関係ないんですが、9年前に遠距離恋愛をしていた彼女と同棲を始めたのでした。そのころは仕事が辛くて無職になったばかりで、彼女に言われるがまま京都から東京に下ってきたのです。何の当てもなくて、とりあえず「アズマー」という連作俳句を作ったことを覚えています。
新卒で入った会社は結局一年半も持たず逃げ出してしまって、そんな甘っちょろい奴が見知らぬ土地で一からやってくなんて、簡単な話ではないのは分かっていました。でも「無職なんて人間じゃない、動物だ」みたいな風潮が怖くて、失業保険を貰いながら、とにかく自分でもできそうな仕事を探したんですが、全くと言っていいほど相手にされませんでした。ネズミかなんかになったような気持ちでした。そして、だんだん決まらないことに慣れていってしまいました。
彼女のアパートはまだ彼女が学生だったときから住んでいる、小さくて古い木造アパートの一階で、防犯面に 非常に不安のある開放的な部屋でした。窓から外に出るとちょっとした庭になっていて、すぐ近くを明るい小川が流れていました。朝は鳥の声がして、二人で小さな魚を焼き、おもちゃみたいな卓袱台で川を見ながら朝御飯を食べました。彼女が仕事に出ると、僕は役に立つ当てのないHTMLの参考書なんかを読んだり、庭に出ていつか使うかもしれない雲や草の素材写真を撮ったりしていました。面接のない日はごろごろしたり図書館で好きな本を読んだり、昼過ぎになると買い出しに出かけて、やたら凝った料理を覚えたりしながら彼女の帰りを待ったものです。
そんな小川の見える小さなアパートで、貯金残高を減らしながらシルバニアファミリーみたいに暮らしていた時期でした。

これから一ヵ月、時系列はあまり気にせず、ふわっとしてべとつくそんな綿菓子日記をお送りします。