2012年1月1日

猿のゐし雑居ビル消え踊る二人

このところ古めの娯楽小説ばかり読んでいる。
昔の装幀を見ると、通いつめていた何軒かの本屋の魅惑に充ちた内部空間が一度に脳裏によみがえってくるので、そういうのを古本屋の100円均一棚で見ると、内容を問わずについつい買ってしまうのだ。
今でも本屋はあるにはあるが、地方はコンビニじみた妙に明るい作りのチェーン店ばかりとなり、パソコンでデータ管理ができるようになってからは、配本も売れるものが上から順番に入るだけとなった。
本文よりも往時の空間の記憶を拾い集めているようなものなので、今となってはそんなには興味がないという本がどんどん手元に集まることになる。昔は書店にに並んだSFやミステリを片端から全て読みたいと思っていたものだが。
そして買ってきて手元にあればついつい読んでしまうから、今となってはどうでもいいようなものも際限なく読むことになる。
そういう読みっぱなしになっているものから句を作ってみようと思うが、書評とか内容紹介にはするつもりがないから、その意味では何の役にも立たない(そんなことを始めたらどんどん凝りだし、長大になって、収拾がつかなくなるに決まっている)。

初回は佐野洋の『檻の中の被害者』である。
これは1982年5月の刊行、「講談社ノベルズ」が創刊されたときの第1回配本のうちの1冊だった。
当時土浦駅の西口はバスターミナルに面して霞ヶ浦の水産物を売る店があり、そのわきにマッチ箱みたいな古ぼけたビルがいくつか建っていた。
そのビルの4階に本屋が入っているのを電話帳で知って階段をのぼり、創刊された「講談社ノベルズ」なるものを手に取ってみたものの、何も買わずに帰ってしまった。その狭い本屋は以後入る機会もないまま、再開発でビルごと消えた。
そのとき見た本が最近手に入り、読んでみた。
男の行く先々で、なぜか動物園の動物が殺される推理小説である。
騒ぎに便乗して、動物園側が用意した身代金を持ち去ってしまう2人組というのが登場するのだが、結局この人たちが、どこの誰だかはわからないままになってしまっていた気がする。
推理小説の筋とかトリックとかは記憶に残らないので、既におぼろなのだ。

ちなみに講談社ノベルズ創刊時のラインナップはこういうものだった。
松本清張 『殺人行おくのほそ道[上・下]』 各580円
森村誠一 『神より借りた砂漠』 620円
西村京太郎『特急さくら殺人事件』 580円
栗本 薫 『神州日月変[上・下]』 各660円
仁木悦子 『陽の翳る街』 620円
赤川次郎 『東西南北殺人事件』 580円
佐野 洋 『檻の中の被害者』 680円
阿佐田哲也『ばいにんぶるーす』 640円
並べてみて、松本清張、西村京太郎、仁木悦子の作品はまだ入手してもいなければ、読んでもいないなと気がついてしまった(森村誠一『神より借りた砂漠』は持っていて未読)。
無駄な完全主義が発動しそうになるので、この手のリスト作りは危険である。


*佐野洋『檻の中の被害者』講談社ノベルズ・1982年