2012年10月7日

天高し自衛隊機のとどまらず

一階は遠かった。物音に注意しながら、階段を下りた。二階あたりで、いままでに嗅いだことのない臭いがした。カーディガンの裾で鼻と口を覆った。
ロビーには、ばらばらの手や足が落ちていた。それから、ホテルの制服を着た女のひとの死体。真っ赤に染まったブラウスのお腹からぞろぞろはみ出したものが目に入った瞬間、わたしは吐いていた。床にみかん色の液体が飛び散った。
死体のほうをできるだけ見ないようにしながら、売店で食べられそうなものを袋に詰めて、走って部屋に戻った。
自分の体臭が染み付いたシーツにくるまって眠ろうとした。昼間だけど。できることなんて何もないし。そのとき、遠くからバラバラバラって音が近づいてきた。ベッドから飛び起きて空を見た。見えない。
屋上に出た。北の空に緑色のヘリコプターが見えた。
『助けて!』
叫ぼうとしたけど、喉が詰まって声にならなかった。
叫ぶことができたとして、聞こえるはずはないのだけれど。