日ありて秋風ありて物乾く  木村定生

アパートに干してあるタオルやTシャツに、秋のしずかな日差しが当たっている風景を思い浮かべた。ただし、「物」と漠然とした言い方にしてあるので、岩や砂や木など、この世界のすべての「物」をも想像できる。

太陽と風があって、物が乾く。そんなあたりまえのことを言っているだけなのだが、心に滲みるのは、リフレインの簡素な調べによって、真理のようなものに突き当っているからだろう。スパイスが効いているのは、ただの風ではなく「秋風」であること。季語によって、物が乾くこと、その先に、一滴の無常が滲む。秋風の句としても非常に新鮮。

「俳句αあるふぁ」(毎日新聞社)2012年8-9号より。