2012年10月6日

まはりまはりてゆくあてのなきをどりかな

静かだ。ときどき犬の鳴き声がする。
外の様子が知りたくて、思い切って部屋を出た。念のため、部屋には鍵をかけてきた。みかんジュース以外口にしてないせいか、ふらふらする。廊下のあちこちに赤黒い染みがある。階段には引きずったような跡がある。シーツを積んだ台車や掃除用具が放置されてる。
ホテルの屋上から見た光景を何て言ったらいいんだろう。
道路では自動車が多重衝突していた。街のあちこちで煙が上がっている。うずまき模様の浴衣を着た一団が目に入った。「助けて!」って叫びそうになって、だけどわたしはその声を飲み込んだ。様子がおかしいのだ。浴衣のひとたち、十人ほどはいるだろうか、盆踊りみたいに列になって歩いてる。ゆらゆら左右に揺れながら、ゆっくりと。みんな裸足で、浴衣がひどく着崩れていて。一様に肌が青白く、浴衣にも肌にも鮮血が飛んでいる。いちばん後ろに、腰の曲がった老婆がいて、サッカーボールをネットに入れたまま引きずっているように見えたけど……よく見るとそれは人間の首だった。
立っていられなくなって、冷たい鉄柵を握ったままその場にしゃがみ込んだ。
あのひとたちもきっとおかしくなってるんだ。あの運転手に食いついたはっぴの男や、廊下で赤ちゃんを食べてた裸の老人みたいに。
塁くんは無事だろうか。