白象に苦しむ姉に江戸の春  攝津幸彦

「白象」と「姉」からは、釈迦をみごもるときその母が脇の下から白象が入ってきた夢を見たと言ったというのを思い出す。聖なるイメージのみならず、性のイメージも想起するのは「苦しむ」の一語に「春」という季節が手伝ってのことだろうか。白象に苦しむ姉にはエロティックな想像も働く。「白象」と「江戸」といえば浮世絵。浮世絵に描かれた見世物としての象は、ぶよぶよしていて、どこか不気味だ。

『摂津幸彦全句集』(摂津幸彦全句集刊行委員会、1997年11月)より。

ふらんす堂の「ふらんす堂通信」の連載「女の俳句」、次号のテーマは「姉妹」で書いた。摂津が「姉」を詠み込んだ句は他にもいくつかあるのだが、連載ではこの白象よりも、もう一句のほうを選んで鑑賞した。しかし、摂津らしいのはこの白象の句だろうな。