2012年10月19日

かさぶたを剥けば蚯蚓が鳴いてくれる

高橋さんがいなくなった。

高橋さんの車で港まで行って、船で本州へ向かうはずだったのに。

昨日車を停めた場所に行ったら、車がなかった。荷物も消えてる。食料も半分以上なくなってる。

なんで置いて行かれたんだろう。昨日の撮影で足手まといにしかならなかったから?

のどが乾いて、ひたすらだるい。食欲がない。何か口に入れないともっと動けなくなる。ビーフジャーキーとサラミをかじって、一日のほとんどを寝て過ごした。

天井の鏡に映る自分の姿がひどい。シーツが鮮やかな空色だから、そこに横たわる自分の汚らしさが余計目立つのかもしれない。髪はほとんど洗えなくて束になり、顔はかさついて粉をふいてる。服は泥やナヅキの体液で赤茶けた色に染まっている。

左手首の傷は完全に化膿した。傷口から発酵食品みたいな臭いがする。左手全体がぱんぱんに腫れてる。昨日の脇腹の傷もひどく痛む。

日が落ちる前にもう一度外に出て、高橋さんの姿がないか捜してみた。汽笛が聞こえた。D温泉駅に向かって、マッチ箱みたいなディーゼル列車が煙を上げながら近づいてきた。運転しているのはほとんどミイラ化したような黒ずんだナヅキで、車両には窓からあふれるほどのおびただしい数のナヅキが乗っていた。