枯原や青空われに肉薄す
二〇〇三年十二月、東京八王子で行われた伊沢惠の指導句会の後だった。その帰り、駅の改札に入る手前で、私は伊沢惠に小さな声で告げた。俳句を止めると。伊沢惠は止めなかった。あなたは若いし、俳句なんかよりもっと楽しいことがいろいろあるだろう、と言って。私は黙ったまま頷いた。伊沢惠から手を差し出してくれた。私はその手を握った。伊沢惠はいつものように微笑んでいたが、改札を通った直後に指で目元を抑えるのが見えた。申し訳ないことをしたと思った。しかし、これでようやく気持ちが晴れるのだと思った。何もかも終ったと思い、私はそれまで集めていた藤田湘子の短冊や色紙、直筆の手紙まできれいさっぱり処分してしまった。二十三歳になったばかりのことだった。