桶の水傾ぎたるまま初氷  嘴朋子

何かの状態のまま固定されてしまった姿に惹かれることがある。琥珀に閉じ込められた虫もそうだし、何かしたままではないが、死んでから何百年何千年も地層に固定された化石とか。たぶん、何も抵抗しないとわかっているのに許されることがないような、そんな切ない感覚になるのだろう。
桶が平なところに置かれず、けれども長時間そこに置かれることで水が揺らぐことなく氷となる。そんな小さなできごとだが、そんな状態で凍ってしまった水に、勝手に平になることを許されなかった妄想をして、きゅんとする。

句集『象の耳』(ふらんす堂 2012年)より。