とりあえずオリオンビール星近し  神野紗希

「なはなは!」を改めて読んで僕が抱いた印象は、「やはり紗希さんは文語的出自を持った俳人だなあ」ということであった。最近俳句の友人と久しぶりに話す機会があって、「伝統的な俳句」と「現代的な俳句」、または僕のイメージに忠実に表現すれば「かっちりした俳句」と「ゆるい俳句」を分けるのは、実は現代仮名歴史的仮名、切れ字、定型などはもちろん文語口語という括りも含め、これまで語られてきた判りやすい言葉ではないのではないかということを話した。そういう意味では、紗希さんは作風としては一見現代仮名を用いて現代的なモチーフの作品を多く作っているという印象が強かったが、実は文体は非常に文語的だと気付いた。

掲句。軽い口調で語られながらも、オリオンビールのオリオンという言葉から星を連想し、それを文字上の星から現実の星に焦点をずらし、「近し」と主観に固く収束させる手法は文語的で、巧みだ。

紗希さんにとっておそらく表面的なジャンル分けは重要でなく、表現したい何かと俳句形式にもっともマッチした文体を用いた俳句作りを行っているのだろう。紗希さんが言う「タフな俳句」とは、現代、伝統という括りの上位階層に位置する概念なのだと感じた。

「なはなは!」(9月11日)より