箱の兎の瞳をさがし得て颱風去る   櫻井博道

〈野辺山〉と前書き。
大いなるものとしての「颱風」が、箱の中の兎の小さな瞳を探しているという景。
台風は兎の瞳を探すためにやってきて見つけたら去っていくということの不思議な説得力。
うるみ震える兎の瞳が、なんだかとても尊いものに思える。
「颱風」は単なる恐ろしい存在ではなく、力強く見守る存在でもあり、
また、「箱の兎」は単なるかよわい存在ではなく、ひしひしと生きている存在でもあるだろう。
台風が去った今、兎の瞳にはなにが映っているのだろうか。

『季語別櫻井博道全句集』(ふらんす堂、2009)より。