手押しポンプの影かっこいい夏休み   長嶋有

ジブリ映画『となりのトトロ』の冒頭、田舎の一軒家に引っ越してきたサツキとメイが、いろんなものが珍しくて目をくるくるさせながら、家じゅうを探検しているシーンみたいだ。手押しポンプをはじめて使ったときの、二人の顔を思い出した。

この句はきっと、夏休みに、田舎に遊びにいったという体だ。祖父母の家かもしれないし、体験キャンプ場のようなところかもしれない。なぜなら、手押しポンプの影を「かっこいい」と形容するのは、手押しポンプになじみがないからだ。ふだん見慣れているものを「かっこいい」とは、普通あまり言わない。

  

確かに、昔のモノには、目で見えるところに仕組みが現れているということが多く、手押しポンプも、あの手押し部分のカーブや、ぷっくりした胴体が個性的だ。そう、「かっこいい」といわれることで、作者の現代っ子ぽさがあらわれているのみならず、ポンプの“かたち感”も読者に感じさせてくれるのだ。たぶんいま、冷蔵庫や洗濯機の影がかっこいい、ってことは、あんまりない。四角いだけだものね。

  

2011年6月12日(日)、渋谷up linkでの句会ライブイベント「第一回 東京マッハ」に発表された作品。ホスト役の千野帽子氏が、ゲストに俳人の堀本裕樹氏、小説家の長嶋有氏、ゲーム作家の米光一成氏を迎えて、壇上で句会を行った。長嶋氏、句会の中で、「ぼく、季語に困ったときは“ゆすらうめ”か“アマリリス”」って言っていたけど、この句が“ゆすらうめ”か“アマリリス”じゃなくてよかった。“夏休み”が、ばしっと決まったと直感したんだろう。当人は「夏の季語の中で、光を感じさせない季語を、と思って」と自句自解。加えて、自ら手押しポンプの写真を持参。「ほら、若い人とか、知らない人いたらいけないと思って」。なんでも、インターネット上でポンプの画像を探し、それをプリントアウトしてきたのだという。「コンビニで拡大コピーしたんだよ!家のプリンターだとここまで大きく印刷できないんだよ!このポンプは楽天で¥21000だよ!」などと言い、終始、会場の笑いを支配していた。

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