童話的な一句。春の月の水っぽさ豊かさに、水を行く櫂が響きあう。三日月に櫂を持たせると、こんな感じかしら、というイラストを頭の中で思い浮かべても楽しいし、「銀の櫂」「春三日月」という言葉をつぶやきながらそのトーンの響きあいを楽しんでもいい。こんな気持ちになれる春の夜半があったら……作者にあこがれてしまうような、そんな一句でもある。銀の櫂を操って、春三日月はどこへゆきたいだろうか。
もうひとこと言うなら、「銀」が効いている。春の月の水気をいうなら「櫂」だけでかまわないわけだが、「銀の」と添えたことで、世間一般の理屈から離れた発想となった。銀は豪奢な気分も出るし、春の月の金色もしくは白色に対して、銀色の涼しさが引き締めてくれる。
第一句集『影に遅れて』(ふらんす堂 2014年4月)より。