藤の花届かざるゆえ垂れるなり  高野ムツオ

正岡子規の名歌「瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり」を踏まえての一句だろう。畳の上に(あるいは大地に)届かない。届かないからこそ、垂れるのだ、と。届けば安らかなのだが、届かないから「垂れる」しかない。「垂れる」は、力が抜けて、溌剌としているというよりは、少しだらしがない印象がある。句集の配置では、咽頭癌の手術を受けた直後の句のようだ。わが身を満たすに足らない力の心もとなさを、病床の子規の歌に重ねて、詠みあげたのではないだろうか。

『萬の翅』(角川学芸出版 2013年11月)より。