下五まで読み下してはじめて、その机上の蛾が骸であることが明かされる。句の主体がその死に気づくタイミングに合わせて、読者の気づきも演出されている。現実的に、机上の蛾を見て、いきなり「死んでいる」とは思わない。そこに蛾をみとめてから死に気づくまで、少しタイムラグがある。そのあいだに「白し小さし」という淡々とした描写が入り、そのひえびえとした捉え方がまた、すでに「生きてなし」の蛾のあわれを色濃くしている。しかしながら、「死」という言葉ではなく「生きてなし」という聞きなれぬ言葉を選んだことで、定型的な「あはれ」の物語に回収され切らない、一句の独立性を確保した。
机上とは、人間の思考の象徴だから、そこに小さな白い蛾が倒れている光景に、うすうすと感じる何ものかがある。
角川「俳句」2014年10月号、特別作品50句「光の中」より。