葱溶けて涙のかたち定まらず  伍藤暉之

葱を煮込みながら泣いているのだろう。葱がとろとろになっていくのを眺めながら、形あるものが液状化する不思議と、自分の涙が変形しない不思議を思っている。その情景は、葱が涙を流し、もとの姿を失ってゆくようにも見える。涙をながしながらも、目に映る光景を観察できており、どこか冷静さがあるように思える。「かたち」とひらがな表記することで、かたさをとり、より葱の、句の、とろとろ加減を出している。

句集『PAISA』(2012年 ふらんす堂)より。