親の親、つまり先祖も、子の子、つまり子孫も、このように田打ちをしてこの土地で生きてきて、そして生きてゆくのだ……そう信じている幸福な一句。「親」「子」をそれぞれ二つ繰り返して勢いのついた語調を、「かくて」の「て」でスッと止めて、「かな」でしっかり息を吐き切る。句の中のリズムがいきいきと息づいているところに惹かれる。
橡面坊は明治二年生まれ、正岡子規率いる日本派の俳人。村上鬼城の〈生きかはり死にかはりして打つ田かな〉より早い時代に詠まれた句だ。
大阪俳句史研究会・東條未英編『安藤橡面坊句集 深山柴』(ふらんす堂 2015年2月)より。これまで顧みられることの少なかった俳人たちの句を掘り起し、書籍にまとめる貴重な活動の一環として生まれた一冊だ。夏目漱石の「吾輩は猫である」で、美学者・迷亭が西洋料理屋でトチメンボーを注文してボーイを困らせる場面があるが、そのトチメンボーは、この橡面坊からとのこと。