吾に指輪こけしに膝のなき良夜  谷さやん

私の指に指輪がないことと、こけしに膝がないこととは、まったく関係がないはずのこと。でも、このように並べられると、私にとっての指輪が、まるでこけしにとっての膝のように感じられる(逆もまたしかり)から、言葉は面白い。
指輪がないという状態は、色恋に疎い現在を思わせる。膝のないこけしは、もし膝があったなら、やっぱり動いたり歩いたりしたかっただろうか。膝がないから、こけしはどこへも行けないのだ。
とはいえ、膝があればこけしじゃないような気もするので、だとすれば指輪のないさっぱりとした吾こそが吾なのだというような気もする、そこへ「良夜」の肯定的な気分が加わって、なんとも複雑な読後感が漂う。

「船団」2015年3月号、俳句30句「近いうち」より。あっけらかんとした物言いに、ふっと愁いの滲むところが、妙にキュートな作風の作家。30句から他にもいくつか。

正座して弾くヴァイオリン今朝の秋
コンビニに靴なし後の月もなし
口笛や殻と呼びたき栗の皮
橙を手にもてあそび絵の値段
凍滝を見し夜鴨の卵割る