口づけの少し冷たき晩夏かな  江渡華子

 こんな句に出会うと、俳句の短さの中で恋愛のひとこまを詠むことの素敵さに改めて気付かされる。「口づけの少し冷たき」という一瞬の感覚。他に何も言わないことで、この感覚がありありととどめられて、どこにも流れていかない。それに「晩夏」の季語がほどよくこの感覚を活かしてくれているところもいい。同じ夏であっても、たとえば初夏の頃の季感とその差を比べてみると、初夏では少し軽やかすぎて「少し冷たき」のあたりの清涼感が出すぎてしまうだろう。季語によってはたちまち甘い句になってしまうけれど、そこも充分に避けられている。若さゆえの初々しさではなく、成熟した大人の初々しさを感じさせる口づけの一句。