丑三つの鶯餅のはにかめり  藤田瞬

丑三つ時の暗がりの中で、鴬餅がなんと、はにかんでいるとは。
くすりと笑えばよいのか、怖がってよいのか……人間の感情のエアポケットを狙ってくるような、俳味を醸し出している。異類婚姻譚のような味わいまで感じ取るのは読みすぎだろうか(鴬餅のほうはその気になっていそう)。
鴬餅のやわらかさやつつましさが「はにかめり」からにじんでいるようでもあるし、「丑三つ」の闇の中に置くことで、そのほのかな色彩がぼんやりと浮かび上がる。

「俳句あるふぁ」2016年2・3月号、「新世紀の俳人たち」より。作者は昭和56年愛媛県生まれ、「花信」所属。

つばくらめ一顧だにせぬ街に住む
二丁目の雪割草に火を放て
足跡と思へり梅の香も色も

一句目の冷酷さも、二句目の暴力性も、三句目の叙情性も、青春のみずみずしさ。