舟遠くとおく朽ちゆく苺パフェ  神野紗希

(スピカ「はつなつの音符」2015-6)

今日日のパフェなるものは、ウエハースやらコーンフレークやらが難解に組まれていて、立派な建築物といっていい。ちょっと強めのゲシュタルト崩壊を起こせば、舟という字がパフェの象形に見えなくもない。そんな構造的なパフェなので、「朽ちゆく」という措辞も納得である。
この句、「舟遠くとおく/朽ちゆく苺パフェ」なのか「舟遠くとおく朽ちゆく/苺パフェ」なのかわからないが、「遠く」「とおく」という距離が時間へと還元されて、苺パフェが倒壊してゆく絵が浮かぶので、そこがわからなくとも美味しくいただける。
舟もまた、昨年度の作品に表れるモチーフだ。「ヨットの帆白しアリスの靴下も」(スピカ「手紙書く」2015-8)、「舟は早や岸辺忘れて蝶の中」(スピカ「岸辺」2016-3)がある。それらはどれも、藻刈舟などの実用的で、浅瀬を離れないものではなく、帆が付いていたり、岸辺を忘れたり、遠くを志向するものである。