かすむけやき僕ほんとにないのかな子宮  福田若之

「僕」で男性作者であることを匂わせたうえで、男性の身体にはそなわっていないはずの子宮の不在を疑い始めるという転倒。
女はたいてい生理を体験するので、痛みや出血の実感を通して、子宮の存在を疑う余地がない。つまり「ほんとにあるのかな」とはあまり思えない。「ほんとにないのかな(=あるんじゃないかな、あるのかな)」と思っている時点で、やはり彼は「僕」なのである。かすんで、存在感の薄いけやき(表記だってひらがなで意味がはく奪されてゆく)が、生殖の中心から遠く隔離されている男という性の、生の希薄さを象徴しているか。

俺ではなく、僕。子ども相談室みたいだ。

句集『自生地』(東京四季出版、2017年)より。