2017.9.29ふらんす堂刊行
野崎海芋句集「浮上」より。
温泉宿から繁華街を過ぎ、ずんずん歩いて行くと、巨大な琵琶湖が見えてきて、人を飲み込むような波が水面を走っている。その中を先端鋭い舟が過ぎて行き、白装束の男達が、何やら意味のわからない唄や踊りを舟上にて一心不乱に繰り返している。やれ、面白いものだなと進んで行くと、人の三倍はあろうかという芦が一面に生い茂っている、その中からエプロンを着けた中年のおばさんがバサリと出てきて何か大声で笑っている。やれ、不思議だなとさらに進むと、突如現れた近江の国のゲリラに捕まり、このような所に来るとはまこと馬鹿だと、罵られながら、檻の中へ…。さて、どうしようか。
というところで夢から覚めました。夢の中の琵琶湖は本物のそれよりもずっと荒々しく美しいものでした。たまにぐっすり眠ると楽しい夢を見れます。
野崎海芋さんの句集「浮上」を読んで行きましょう。装丁も気持ちの良い本なので、ぜひ実物を見て欲しいです。
ジャム瓶の厚きにヒヤシンスを挿しぬ
「厚き」があるから景がはっきり見えてきます。
飲みさしのワインぬるしよ卓に火蛾
飲みさしから飲むけれど。ワインのことは全くわからないのですが、難しいのは高いと美味いというわけじゃないところ。日本酒は高ければだいたい美味しいんですが、そこが難しい。
野をゆきて灯るものなし秋の暮
行けばわかるさ。
巴里凍てぬガイドブックに無き路地も
ガイドブックに無き巴里を。
雪晴やこどものこゑのよくひびく
子どもだけの高い綺麗な声。
一つ目の巨人晩夏の森を出る
ルドンのサイクロプスの画かなと。実物は見たことないけれど、あの画にはずっと見ていたいような不思議さがある。
吾が髪の雪払ふ汝が手にも雪
ありがと。
噛み砕きビタミン剤や去年今年
頑張るぞ。
寄居虫(やどかり)を放てばあるく海の方へ
寄居虫「おら、帰る」
文学館青芝に図書持ち出し可
可。
シロナガスクジラの浮上轟ける
どどどどど、っと浮上。巨大な存在は神様のように、ありがたい気持ちになる。
松茸飯炊けたりと告げ拡声器
食えー、食えー。
持ち来たる新米なるぞ自転車押し
よっこいしょういち。
さくら餅食ふな質問しておいて
むちゃむちゃと口の中。
ホースもて洗ふボートや汝が背も
ジャー!
兜蟹かさなり合へる月夜かな
がさごそと。
秋の蚊のくちびる刺してゆきにけり
そこは嫌。
落花生茹でたて食ふや汁も吸ふ
妻の実家が千葉なので、落花生やたらと食べます。あれは美味しいやつは本当に美味しい。ただし食べ過ぎてしまうのがこわい。
新聞紙に包み熊肉朱筆に「クマ」
僕はクマ。
宇宙ごみ宇宙をただよへる寒さ
本当に将来どうするんだろ、宇宙ごみ。
きらきらと目高目高の子を食へる
目高の国にある色々。
テレビ見てゐるのか賀状書いてゐるのか
…テレビを、見ています。
俳句の素材が広く、とても楽しい句集でした。
僕も巴里とか詠んでみたい、というか行ってみたいな。
じゃ
ばーい