昼寝時田をゆく雲の影ひとつ  村上鞆彦

「影ひとつ」(『俳句 9月号』角川学芸出版)より。表題の句である。
これぞ写生句!と言いたくなるような句だ。
昼寝時の穏やかな時間を、寝ずに、けれども穏やかな気分で過ごしていると、ゆっくりと田を影がよぎる。もちろん田に人もおらず、鳥が過ぎるにはゆっくりと影がうごくから、それが雲の影なのだと少し遅れてわかる。
上五から中七下五へ、時間も視覚も思考も逆戻りすることなく進んでいる。けれど、句はスピードを持っていない。それがいっそう穏やかな日であることを示している。