週刊俳句229号10句競作第一席『行つたきり』より。
蝉の骸は仰向けのことが多く、その腹の白さばかりに目が行き、あまり羽のことは意識されない。
蝉の死はある時期からいっせいに訪れ、道端によく羽のみが落ちていることがある。その羽は乾いているだろうに、何故かその透明感に「濡れ感」を感じてしまう。
アパート等ビルの外にある階段。普段使われることのない非常階段であることが多いだろう。そこに忘れられたように落ちている蝉の死骸。仰向けだったら、確実に死を思うが、羽が見えていたから、作者は生きている可能性を思い、どきっとしたことだろう。